土木(どぼく)工事(こうじ)が終(お)わり、砂泥(さでい)の窪地(くぼち)に水を湛(たたえ)えただけの殺風景(さっぷうけい)なひろがりに、どのようにして、室蘭(むろらん)らしい生物(せいぶつ)の群集(ぐんしゅう)を再現(さいげん)するか?荒地(あれち)に芽生(めば)えて数(すう)か月()で開花(かいか)・結実(けつじつ)する草花(くさばな)がある一方(いっぽう)、長年月(ちょうねんげつ)かけてできる森の林床(りんしょう)にのみ育(そだ)つ草花(くさばな)もあります。同(おな)じことは動物(どうぶつ)にも言(い)えます。
　ビオトープの周辺(しゅうへん)は多様(たよう)な地形的(ちけいてき)要素(ようそ)がコンパクトに集中(しゅうちゅう)してはいますが、古くから人に利用(りよう)されてきた土地(とち)であり、その外側(そとがわ)は海(うみ)と市街地(しがいち)です。移動(いどう)能力(のうりょく)が大きな鳥(とり)や昆虫(こんちゅう)、綿毛(わたげ)のある種子(しゅし)でなければ容易(ようい)に入(はい)り込(こ)めません。淡水魚(たんすいぎょ)はもちろん、ホタルなどでも広(ひろ)い市街地(しがいち)を越(こ)えて分布(ぶんぷ)を広げることは困難(こんなん)です。
　トミヨやエゾホトケドジョウ(絶滅(ぜつめつ)危惧(きぐ)種(しゅ))など、失(うしな)われつつあった室蘭(むろらん)の在来(ざいらい)種(しゅ)のいくつかを先行(せんこう)実験(じっけん)池(いけ)「鶴(つる)の雫(しずく)」で繁殖(はんしょく)・保存(ほぞん)してきた数年(すうねん)来(らい)の準備(じゅんび)を活用(かつよう)し、先駆種(せんくしゅ)の導入(どうにゅう)・定着(ていちゃく)から始(はじ)めました。
　生物(せいぶつ)を介(かい)した物質(ぶっしつ)の循環(じゅんかん)という面(めん)からみると、すべての生物(せいぶつ)は生産者(せいさんしゃ)、消費者(しょうひしゃ)、分解者(ぶんかいしゃ)に分(わ)けることができます。太陽(たいよう)光線(こうせん)をエネルギーに、生産者(せいさんしゃ)としての緑色(りょくしょく)植物(しょくぶつ)から始(はじ)まり、食物(しょくもつ)連鎖(れんさ)からなる消費者(しょうひしゃ)を経(へ)て、ついには分解者(ぶんかいしゃ)により無機(むき)の分子(ぶんし)にまで分解(ぶんかい)され、再(ふたた)び生産者(せいさんしゃ)により利用(りよう)されます。

• A 植物(しょくぶつ)（生産者(せいさんしゃ)）

  古くはエトモヘと続(つづ)く交通路(こうつうろ)であったこの地(ち)は、ガケ下(した)にミズバショウの湿地(しっち)が広(ひろ)がっていたとのことですが、その後(ご)放牧(ほうぼく)地(ち)に、戦争(せんそう)の時代(じだい)には射撃場(しゃげきじょう)・砂鉄(さてつ)の採掘(さいくつ)、そしてゴルフ場(じょう)が移転(いてん)した後(あと)は、臨時(りんじ)の駐車場(ちゅうしゃじょう)としてブルでナラされた荒(あ)れ地(ち)のまま、冬季(とうき)の雪捨(ゆきす)て場(ば)として半(なかば)ば放置(ほうち)されてきました。
  　2006年よりビオトープの造成(ぞうせい)が可能(かのう)となり、これに合(あ)わせて潮風(しおかぜ)最前線(さいぜんせん)への植樹(しょくじゅ)や水辺(みずべ)の植物(しょくぶつ)の導入(どうにゅう)を進(すす)めています。
  
  (1)海浜(かいひん)植物(しょくぶつ)
  　イタンキは、繰(く)り返(かえ)された撹乱(かくらん)により樹木(じゅもく)は失(うしな)われ多(おお)くの外来(がいらい)植物(しょくぶつ)が侵入(しんにゅう)していますが、砂浜(すなはま)と斜面(しゃめん)には意外(いがい)と多(おお)くのものが残(のこ)されています。海浜(かいひん)植物(しょくぶつ)としてはハマナス、ハマボウフウ、ハマハタザオ、ハマエンドウ、ハマヒルガオ、ハマニガナシロヨモギ、オカヒジキ、コウボウムギ、コウボウシバなどが狭(せま)い範囲(はんい)に見(み)られ、コンクリートの護岸(ごがん)が多(おお)くなった今では貴重(きちょう)な群落(ぐんらく)となっています。
  
  (2)海岸(かいがん)草地(くさち)の花(はな)
  　斜面(しゃめん)から草地(くさち)には、キジムシロ、ナミキソウ、エゾカンゾウ、ノハナショウブなども多(おお)く、見落(みおと)としてしまいそうな可憐(かれん)なヒメヤブランや沢水(さわみず)の浸(し)み出(だ)すあたりにはミズバショウも残(のこ)っています。またセリ科(か)の大型(おおがた)種(しゅ)オオハナウドやアマニュウ、さらに3mにもなって巨大(きょだい)な花(はな)のテーブルを広げるエゾニュウも夏(なつ)のイタンキを特徴(とくちょう)づけてくれます。
  
  (3)潮風(しおかぜ)最前線(さいぜんせん)への植樹(しょくじゅ)
  　イタンキの環境(かんきょう)は市販(しはん)されている一般(いっぱん)的(てき)な苗木(なえぎ)では到底(とうてい)無理(むり)なので、活動(かつどう)の早(はや)い段階(だんかい)から独自(どくじ)に潮風(しおかぜ)に耐える樹種(じゅしゅ)の実生(みしょう)苗木(なえぎ)を育成(いくせい)してきました。地元(じもと)の海岸(かいがん)近(ちか)くに自生(じせい)する樹種(じゅしゅ)を調査(ちょうさ)し、海(うみ)に面(めん)した斜面(しゃめん)に苗圃(びょうほ)を作り種子(しゅし)から育(そだ)てて3〜5年、50cm位(くらい)に育(そだ)ったものを潮風(しおかぜ)最前線(さいぜんせん)に植樹(しょくじゅ)してきました。
  　2005年、カシワ、ズミ、ミヤマハンノキなど240本(ほん)を植樹(しょくじゅ)。以後(いご)毎年(まいとし)周辺(しゅうへん)への植樹(しょくじゅ)を続(つづ)け、2011年(ねん)春(はる)までに2,000本(ほん)を超(こ)え、早(はや)いものは樹高(じゅこう)3〜4mほどに育(そだ)ち、少しは「木立(こだち)」らしくなってきました。
  
  (4)水辺(みずべ)や水中(すいちゅう)の植物(しょくぶつ)
  　オカトラノオやエゾクガイソウなど蜜源(みつげん)となる植物(しょくぶつ)の他(ほか)に、失(うしな)われた室蘭(むろらん)の湿原(しつげん)を想定(そうてい)して周辺(しゅうへん)から導入(どうにゅう)したカキツバタ、ヒオウギアヤメ、エゾミゾハギ、ヤナギトラノオなど水辺(みずべ)を彩(いろど)るもの、花(はな)は目立(めだ)たないがミクリ、ガマ、サンカクイなど水辺(みずべ)の景観(けいかん)をつくるもの、ヒシやヒツジグサをはじめ浮葉(ふよう)・沈水(ちんすい)植物(しょくぶつ)など水草(みずくさ)類(るい)も多(おお)くのものを導入(どうにゅう)し適性(てきせい)を観察(かんさつ)しています。
  
  (5)埋土(まいど)種子(しゅし)
  トンボとミジンコの卵(たまご)を目的(もくてき)に、2007年(ねん)春(はる)に5リットルほど投入(とうにゅう)した田の表土(ひょうど)(ひょうど)からの嬉(うれ)しいオマケ。ヒメガマ、オモダカ、ミズアオイ、カヤツリグサ3種(しゅ)ほど、シャジクモなどが生(は)えてきました。
  

• B 動物(どうぶつ)（消費者(しょうひしゃ)）

  (1)哺乳類(ほにゅうるい)
  　2007年(ねん)夏(なつ)キタキツネが近(ちか)くの岩場(いわば)で繁殖(はんしょく)しました。雪上(せつじょう)にはウサギの足跡(あしあと)が見(み)られ、晩秋(ばんしゅう)には苗木(なえぎ)の食害(しょくがい)防止(ぼうし)のトラップに、顔(かお)がまるくシッポが短(みじか)いエゾヤチネズミとシッポの長(なが)いアカネズミが捕獲(ほかく)されます。
  
  
  (2)鳥類(ちょうるい)
  　地球(ちきゅう)岬(みさき)へと続(つづ)く渡(わた)りのコースにあたるので、春(はる)秋(あき)に見(み)られる種類(しゅるい)は多(おお)い。ヒバリ、コヨシキリ、ノビタキなどがビオトープの周辺(しゅうへん)で繁殖(はんしょく)し、ハクセキレイが頻繁(ひんぱん)に水浴(みずあ)びに来ます。近(ちか)くの断崖(だんがい)ではハヤブサやイワツバメが営巣(えいそう)し、冬季(とうき)には空中(くうちゅう)に静止(せいし)して獲物(えもの)を狙(ねら)うノスリの姿(すがた)が良(よ)く見(み)られます。地表(ちひょう)すれすれを飛(と)んで狩(か)りをするチュウヒやコミミズクの見(み)られることもあります。
  　繁殖(はんしょく)した淡水魚(たんすいぎょ)トミヨを狙(ねら)ってカワセミの姿(すがた)も見(み)られるようになりました。
  
  (2)爬虫(はちゅう)類(るい)
  　ニホントカゲが近(ちか)くの岩場(いわば)や草地(くさち)で繁殖(はんしょく)しています。シマヘビが現(あらわ)れることもあります。
  
  (4)両生(りょうせい)類(るい)
  　先行(せんこう)実験(じっけん)池(いけ)「鶴(つる)の雫(しずく)」に導入(どうにゅう)したエゾアカガエルが順調(じゅんちょう)に繁殖(はんしょく)し年々(ねんねん)数(かず)を増(ふ)やしています。このオタマジャクシを子ども達(たち)がビオトープに放流(ほうりゅう)。成長(せいちょう)の良(よ)いものは翌(よく)春(しゅん)、大部分(だいぶぶん)は2年(ねん)目(め)の早(そう)春(しゅん)、まだ雪(ゆき)の残(のこ)っているころに回帰(かいき)・産卵(さんらん)します。
  ニホンアマガエル
  　2007年(ねん)に子カエルを導入(どうにゅう)、2009年(ねん)に初めて繁殖(はんしょく)を確認(かくにん)しました。♀(めす)が2年(ねん)目(め)に成熟(せいじゅく)することもわかりました。2010年(ねん)には数(かず)も増(ふ)えて、ホタル観察(かんさつ)会(かい)の人々を盛大(せいだい)な鳴(な)き声(ごえ)で迎(むか)えてくれるようになりました。
  エゾサンショウウオ
  　数回(すうかい)導入(どうにゅう)されていますが、まだ産卵(さんらん)は確認(かくにん)されません。
  
  (5)淡水魚(たんすいぎょ)
  　かつては、急斜面(きゅうしゃめん)を下(くだ)る沢水(さわみず)は雨(あめ)が降(ふる)ると水溜(みずたま)りができ晴(はれ)れると乾(かわ)く状態(じょうたい)でしたので、ビオトープの魚類(ぎょるい)は「失(うしな)われた室蘭(むろらん)の湿原(しつげん)」をモデルにすべてを周辺(しゅうへん)から導入(どうにゅう)することになります。
  トミヨ
  室蘭(むろらん)在来(ざいらい)のものを、先行(せんこう)実験(じっけん)池(いけ)「鶴(つる)の雫(しずく)」で繁殖(はんしょく)・保存(ほぞん)してきました。造成(ぞうせい)されたビオトープに子ども達(たち)が放流(ほうりゅう)し順調(じゅんちょう)に繁殖(はんしょく)。生育(せいいく)も良(よ)く飽和(ほうわ)状態(じょうたい)が続(つづ)いています。
  イトヨ
  2007年(ねん)5月、室蘭(むろらん)水族館(すいぞくかん)の協力(きょうりょく)を得(え)て、川に遡上(そじょう)する前(まえ)に海(うみ)の定置(ていち)網(あみ)に混獲(こんかく)されたものを淡水(たんすい)に順化(じゅんか)して放流(ほうりゅう)。繁殖(はんしょく)に成功(せいこう)して、20ミリほどの若魚(わかうお)が高(こう)密度(みつど)に見(み)られるようになりました。通常(つうじょう)、川で繁殖(はんしょく)するイトヨは夏(なつ)の終(お)わりに降海(こうかい)します。このビオトープから溢(あふ)れる水は海(うみ)までは届(とど)かないので防護(ぼうご)のネットを設置(せっち)しましたが、8月初旬(しょじゅん)、未明(みめい)の豪雨(ごうう)に乗(じょう)じネットを越(こ)えて一斉(いっせい)に流下(りゅうか)、全滅(ぜんめつ)して陸封(りくふう)に失敗(しっぱい)しました。
  　2010年(ねん)秋(あき)から23年(ねん)5月にかけ、幌別(ほろべつ)川(がわ)砂防(さぼう)ダムの陸封(りくふう)個体(こたい)群(ぐん)を導入(どうにゅう)、繁殖(はんしょく)。残留(ざんりゅう)個体(こたい)の有無(うむ)など経過(けいか)を観察(かんさつ)中(ちゅう)です。
  エゾホトケドジョウ
  　室蘭(むろらん)在来(ざいらい)のもの。繁殖(はんしょく)していますが、まだあまり多(おお)くありません。
  フクドジョウ
  チマイベツ川産(さん)。礫底(れきてい)の流水(りゅうすい)に見(み)られる種(しゅ)ですので、ビオトープでの繁殖(はんしょく)には無理(むり)があるかも知(し)れません。
  ドジョウ
  チマイベツ川、アヨロ川などから導入(どうにゅう)。繁殖(はんしょく)、順調(じゅんちょう)に増(ふ)えてトミヨの次に多(おお)くいます。
  ジュズカケハゼ
  北(きた)桧山(ひやま)産(さん)、2009年(ねん)秋導入(どうにゅう)。繁殖(はんしょく)に注目(ちゅうもく)します。ヌマチチブや魚食(ぎょしょく)の傾向(けいこう)が強(つよ)いといわれるウキゴリなどの導入(どうにゅう)についても検討(けんとう)中(ちゅう)です。
  (6)甲殻(こうかく)類(るい)
  　ニホンザリガニ(絶滅(ぜつめつ)危惧(きぐ)種(しゅ))とヨコエビがこの沢水(さわみず)に自生(じせい)しています。
  スジエビ
  チマイベツ川産(さん)など、数回(すうかい)導入(どうにゅう)しましたが子エビの確認(かくにん)はできていません。
  
  (7)昆虫(こんちゅう)
  　水を張(は)った翌(よく)日(じつ)にはアメンボが飛来(ひらい)、数日(すうじつ)後(ご)にはマツモムシ。2006年(ねん)の小さな池(いけ)でも両者(りょうしゃ)は多数(たすう)繁殖(はんしょく)しました。2007年(ねん)はミズカマキリも繁殖(はんしょく)、銀(ぎん)ピカのイトヨの子を吸(す)っている姿(すがた)が多(おお)く目立(めだ)ちました。2008年(ねん)にはガムシの繁殖(はんしょく)がみられ20091年(ねん)にはかつては北海道(ほっかいどう)には分布(ぶんぷ)しないとされたハイイロゲンゴロウそして、ショウジョウトンボも頻繁(ひんぱん)に目撃(もくげき)されました。さらに、2010年(ねん)にはクロスジギンヤンマの産卵(さんらん)も観察(かんさつ)されています。多様(たよう)な地形的(ちけいてき)要素(ようそ)が集中(しゅうちゅう)しているイタンキは「水域(すいいき)」が加(くわ)わることにより、さらに多様(たよう)な生(い)き物(もの)を育(はぐく)むことが可能(かのう)になってきました。
  
  　渡(わた)り鳥(どり)のコースとしてもよく知(し)られる地球(ちきゅう)岬(みさき)に続(つづ)くイタンキは、北海道(ほっかいどう)では越冬(えっとう)できないヒメアカタテハがよく見(み)られます。開(ひら)けた草地(くさち)にはジャノメチョウが多(おお)く、クサフジなどマメ科(か)を食草(しょくそう)とするツバメシジミやルリシジミも見(み)られます。イワミツバやセリにはキアゲハの幼虫(ようちゅう)が見(み)られることもあり、晩秋(ばんしゅう)の苗圃(びょうほ)ではサンショウの若木(わかぎ)にアゲハの幼虫(ようちゅう)も見(み)られます。
  
  ヘイケボタル
  活動(かつどう)の当初(とうしょ)から「室蘭(むろらん)のホタルの復活(ふっかつ)」は大きな目標(もくひょう)でした。古い話(はなし)を聞(き)くと「いたる所(ところ)にホタルがいた」と言(い)います。白鳥(はくちょう)が泊(とま)る湾(わん)に面(めん)して干潟(ひがた)や湿地(しっち)が続(つづ)いていた古い地形(ちけい)・環境(かんきょう)を想(おも)えば当然(とうぜん)のことです。しかし、経済(けいざい)の高度(こうど)成長(せいちょう)の時代(じだい)を経(へ)てホタルの生息(せいそく)できる環境(かんきょう)は失(うしな)われ、石川町(いしかわちょう)の一部(いちぶ)を除(のぞ)いて、室蘭(むろらん)は「ホタルの絶滅(ぜつめつ)地域(ちいき)」です。
  　1999年(ねん)白老(しらおい)で行(おこな)われた北海道(ほっかいどう)ホタルの会(かい)のシンポジウム「ホタル自然(しぜん)復帰研究(けんきゅう)交流(こうりゅう)大会(たいかい)」に参加(さんか)するなどして知見(ちけん)を深(ふか)め、タネ親(おや)の導入(どうにゅう)元(もと)について検討(けんとう)しました。室蘭(むろらん)らしい自然(しぜん)の再生(さいせい)という目的(もくてき)から安易(あんい)な「購入(こうにゅう)」を退(しりぞ)け、虎杖浜(こじょうはま)地区(ちく)の野生(やせい)のヘイケボタルをタネ親(おや)に、2000年(ねん)以来、累代(るいだい)飼育(しいく)を続(つづ)け、放流(ほうりゅう)できる環境(かんきょう)の実現(じつげん)を待(ま)ちました。
  　造成(ぞうせい)がスタートした2006年(ねん)(ねん)夏(なつ)から19年(ねん)秋にかけて合計(ごうけい)1,280匹(ひき)の飼育(しいく)幼虫(ようちゅう)を放流(ほうりゅう)し、以後(いご)は放流(ほうりゅう)を止(や)めて定着(ていちゃく)・繁殖(はんしょく)の経過(けいか)を観察(かんさつ)してきました。少数(しょうすう)からのスタートでしたが、羽化(うか)・発生(はっせい)数(すう)は順調(じゅんちょう)に増加(ぞうか)し、放流(ほうりゅう)した幼虫(ようちゅう)の影響(えいきょう)が無(な)くなった2010年(ねん)夏(なつ)発生(はっせい)したホタルは全(すべ)てがイタンキでの産卵(さんらん)からのものであり「ホタルが定着(ていちゃく)した」といえます。この年(とし)から市民(しみん)観察(かんさつ)会(かい)を呼(よ)びかけましたが、多(おお)い日で24匹(ひき)(22年(ねん))29匹(ひき)(23年(ねん))観察(かんさつ)されています。
  
  　造成(ぞうせい)したばかりの人工(じんこう)の環境(かんきょう)に、大変(たいへん)順調(じゅんちょう)に定着(ていちゃく)しました。「水(みず)」「陸(りく)」「空(そら)」の全(すべ)ての環境(かんきょう)を要求(ようきゅう)するホタルにとって沢水(さわみず)に潤(うるお)された池(いけ)・水路(すいろ)、イ草(いぐさ)やスゲ類(るい)の茂(しげ)る湿地(しっち)状(じょう)の岸辺(きしべ)などが気(き)に入ったのでしょう。そして何よりも、人工(じんこう)の光(ひかり)の無(な)い宵闇(よいやみ)が気(き)に入ったのでしょう。光(ひかり)で恋(こい)のシグナルを交わし飛翔する彼(かれ)らにとって闇(やみ)の空間(くうかん)は不可欠(ふかけつ)です。市街地(しがいち)に隣接(りんせつ)していながら人工(じんこう)光(ひかり)の届(とど)かないイタンキの地形(ちけい)・環境(かんきょう)は貴重(きちょう)です。逃(に)げることを知(し)らないホタルがビオトープ・イタンキに永(なが)く定着(ていちゃく)できるよう、そっと見守(みまも)ってやりたいものです。
  
  ハイイロゲンゴロウ
  かつては「北海道(ほっかいどう)には分布(ぶんぷ)しない」とされていた種(しゅ)です。最近(さいきん)は道内(どうない)でも散発(さんぱつ)的(てき)に見(み)つかっているようですが、2009年(ねん)、2010年(ねん)とも、水草(みずくさ)の少ない開放(かいほう)的(てき)な部分(ぶぶん)に多(おお)く見(み)られました。
  　ヒメゲンゴロウ、マメゲンゴロウなどは既(すで)に定着(ていちゃく)していますが、大型(おおがた)種(しゅ)のゲンゴロウ(絶滅(ぜつめつ)危惧(きぐ)種(しゅ))やゲンゴロウモドキは見(み)られません。これらの導入(どうにゅう)についても検討(けんとう)していきます。
  ガムシ
  2008年(ねん)夏(なつ)、大人(おとな)の指(ゆび)ほどもある大きな幼虫(ようちゅう)が見(み)つかりました。ブヨブヨの胴体(どうたい)にニッパーのような頑丈(がんじょう)な大顎(おおあご)、ガムシです。
  　尾端(びたん)で空気(くうき)を呼吸(こきゅう)して水中(すいちゅう)生活(せいかつ)、頑丈(がんじょう)な大顎(おおあご)で殻(から)を砕(くだ)きモノアラガイなどを食(た)べます。成長(せいちょう)すると上陸(じょうりく)して地中(ちちゅう)に部屋(へや)を作(つく)って蛹(さなぎ)となります。成虫(せいちゅう)も水生(すいせい)ですので、ゲンゴロウと混同(こんどう)している人もいますが、別(べつ)グループでゲンゴロウほど水中(すいちゅう)生活(せいかつ)に適応(てきおう)していません。「泳(およ)ぐ」というよりは水中(すいちゅう)を「歩(ある)く」という雰囲気(ふんいき)です。
  　2009年(ねん)春(はる)には卵嚢(らんのう)が10個(こ)近(ちか)く見(み)つかり、夏(なつ)にかけて観察(かんさつ)会(かい)のたびに大きな幼虫(ようちゅう)が見(み)つかって子ども達(たち)の「注目(ちゅうもく)の的(まと)」でした。幼虫(ようちゅう)時代(じだい)の肉食(にくしょく)から一転(いってん)、成虫(せいちゅう)は植物(しょくぶつ)食(しょく)ですので、水草(みずくさ)の茂(しげ)ったビオトープは彼(かれ)らの天国(てんごく)でしょう。
  
  　幼虫(ようちゅう)期(き)を水中(すいちゅう)ですごし、成虫(せいちゅう)の移動(いどう)能力(のうりょく)が大きいトンボに関心(かんしん)の集(あつ)まるところですが、下記(かき)22種(しゅ)が観察(かんさつ)されています。北方(ほっぽう)系(けい)の希少(きしょう)種(しゅ)マダラヤンマの数(かず)が多(おお)いのと同時(どうじ)に、南方(なんぽう)系(けい)のタイリクアカネ、コノシメトンボも多(おお)く見(み)られます。
  

  アオイトトンボ科(か)	アオイトトンボ、オツネントンボ
  イトトンボ科(か)	エゾイトトンボ、クロイトトンボ、アジアイトトンボ
  オニヤンマ科(か)	オニヤンマ
  ヤンマ科(か)	ルリボシヤンマ、オオルリボシヤンマ、マダラヤンマ、ギンヤンマ、クロスジギンヤンマ
  トンボ科(か)	アキアカネ、ナツアカネ、タイリクアカネ、マユタテアカネ、ミヤマアカネ、ノシメトンボ、 コノシメトンボ、ショウジョウトンボ、ウスバキトンボ、シオカラトンボ、ヨツボシトンボ

  
  　秋(あき)の色(いろ)が濃(こ)くなってきた10月上旬(じょうじゅん)、コカナダモの茂(しげ)みの中に、5cmほどのトミヨの死体(したい)が有(あ)りました。すでに白っぽく脱色(だっしょく)し、片身(かたみ)の肉(にく)が大きくエグられていました。こんな狩(か)りができるのはギンヤンマかオオルリボシのヤゴくらいでしょう。トミヨ自身(じしん)も肉食(にくしょく)ですから、5cmの成魚(せいぎょ)に育(そだ)つまでには、夏(なつ)の間(あいだ)に小さなヤゴをずいぶんと食(た)べてきていることでしょう。
  ショウジョウトンボ
  西(にし)日本(にほん)では普通(ふつう)種(しゅ)です。東北(とうほく)地方(ちほう)では産(さん)地(さち)が限(かぎ)られ希少(きしょう)、北海道(ほっかいどう)では1957年(ねん)に函館(はこだて)での記録(きろく)が1件(けん)あるだけでしたが、2007年(ねん)8月26日飛来(ひらい)が観察(かんさつ)されました。♂(おす)2,♀(めす)1で産卵(さんらん)行動(こうどう)も見(み)られ、後(あと)にヤゴも採取(さいしゅ)されました。
  　翌(よく)2008年(ねん)7月にビオトープで羽化(うか)カラが1個(こ)回収(かいしゅう)され、2009年(ねん)以降(いこう)は資料(しりょう)のとおり頻繁(ひんぱん)に観察(かんさつ)されるようになりました。2011年(ねん)には終令(しゅうれい)のヤゴと羽化(うか)直後(ちょくご)の成虫(せいちゅう)も2件(けん)観察(かんさつ)され、定着(ていちゃく)したと言(い)えます。
  クロスジギンヤンマ
  これもかつては北海道(ほっかいどう)では見(み)られなかった種(しゅ)ですが、2001年(ねん)頃(ころ)から函館(はこだて)など道南(どうなん)で見(み)られるようになっていました。写真(しゃしん)は2010年(ねん)のものですが、現在(げんざい)の北限(ほくげん)記録(きろく)かと思(おも)われます。今後(こんご)の定着(ていちゃく)に注目(ちゅうもく)します。
  　写真(しゃしん)は♀(めす)が水中(すいちゅう)の植物(しょくぶつ)に産卵(さんらん)しているところです。
  

• C 菌類(きんるい)（分解者(ぶんかいしゃ)）

  　菌類(きんるい)は、動物(どうぶつ)や植物(しょくぶつ)の遺体を分解(ぶんかい)し土(無機(むき)物(ぶつ))に還(かえ)したり、また共生(きょうせい)関係(かんけい)をもち、草木(くさき)ともちつもたれつの生活(せいかつ)をします。
  　海側(うみがわ)に植樹(しょくじゅ)したミヤマハンノキは条件(じょうけん)が悪(わる)いのに見事(みごと)に生長(せいちょう)しています。写真(しゃしん)に見(み)られる根粒(こんりゅう)菌(きん)とともに、VA(ぶいえー)菌(きん)などが根元(ねもと)の地中(ちちゅう)でハンノキの生長(せいちょう)を支(ささ)えているのしょう。VA(ぶいえー)菌(きん)はアーバスキュラーとよばれ、植物(しょくぶつ)のリン吸収(きゅうしゅう)を促進(そくしん)させる働(はたら)きをします。
  　ミヤマハンノキは、ビオトープ周辺(しゅうへん)の植樹(しょくじゅ)木の中では、どこでも一様(いちよう)に一回(ひとまわ)り大きく生長(せいちょう)しています。まさに、パイオニア樹種(じゅしゅ)なのです。そして、ある程度(ていど)生長(せいちょう)すると必(かなら)ず、ハンノキと共生(きょうせい)するハンノキイグチというきのこを発生(はっせい)させます。何(なん)年(ねん)後(ご)か、ビオトープ周辺(しゅうへん)に植樹(しょくじゅ)したものが、生長(せいちょう)し林になったとき、そこにきっとハンノキイグチをはじめ、さまざまなきのこが発生(はっせい)することでしょう。
  
  　きのこにとって水分(すいぶん)は大切(たいせつ)な役割(やくわり)をもちます。雨(あめ)が多(おお)いと砂地(すなち)のきのこもあちこちに発生(はっせい)します。ビオトープから流(なが)れた水が、砂地(すなち)に浸(し)み込(こ)んだ表土(ひょうど)にはいろんなきのこが発生(はっせい)します。
  　きっと、菌糸(きんし)を地中(ちちゅう)深(ふか)く伸ばして、水分(すいぶん)を汲(く)み上(あ)げているのでしょう。ですから、砂地(すなち)のきのこは大雨(おおあめ)の後(あと)などにコウボウムギ、ハマヒルガオなどにからまったり、寄(よ)り添(そ)ったりして点々(てんてん)と生(は)えます。
  　そしてよく観察(かんさつ)すると、きのこが多(おお)く発生(はっせい)する場所(ばしょ)の下には水の流(なが)れがあるようなのです。
  　ことしの夏(なつ)、ビオトープの排水(はいすい)路(ろ)、下流(かりゅう)に当(あ)たるところのコウボウムギの根元(ねもと)には、たくさんのきのこが発生(はっせい)しました。